自然な睡眠を
取り戻すための
睡眠薬(睡眠導入剤)
心の病気では、睡眠の質が低下するケースが少なくありません。また睡眠の質の低下がストレスとなり、心身の不調を引き起こすこともあります。
そういった場合に、治療の一環として使用されるのが「睡眠薬(睡眠導入剤)」です。“こわい”、“副作用が強い”といったマイナスイメージを持つ方もいますが、現在使用されているものは、適切に使用する限り安全性が高く、健康を害するようなことはありません。注意すべきポイントを抑えてしっかり、正しく使用し、自然な睡眠を取り戻すことで、心身の健康を守りましょう。
睡眠薬と睡眠導入剤の違いは?
まず「睡眠薬」という大きなくくりがあり、そのうちの作用時間が短いものを、便宜的に「睡眠導入剤」と呼んでいます。そのため、本質的には同じものと考えて構いません。
睡眠薬の5つの種類
現在使用されている睡眠薬は、そのメカニズムなどによって以下の5つに分類されます。
種類 | 商品名 | 詳細 |
---|---|---|
非ベンゾジアゼピン系 | マイスリー/アモバン/ルネスタ 【ジェネリック】ゾルピデム/ゾピクロン/エスゾピクロン |
依存性耐性の少ない睡眠薬です。そのため、治療開始はこの「非ベンゾジアゼピン系」を処方することが多くなります。 |
ベンゾジアゼピン系 | ハルシオン/レンドルミン/エバミール(ロラメット)/リスミー/デパス/サイレース/ユーロジン/ベンザリン(ネルボン)/ドラール 【ジェネリック】トリアゾラム/ブロチゾラム/ロルメタゼパム/リルマザホン/エチゾラム/フルニトラゼパム/エスタゾラム/エスタゾラム/エスタゾラム/ニトラゼパム/クアゼパム |
脳の興奮を抑え、不安・緊張を和らげることで、不眠の改善を図ります。筋弛緩作用により、頭痛や腰痛の軽減も期待できます。 |
メラトニン受容体作動薬 | ロゼレム/メラトベル 【ジェネリック】ラメルテオン |
「メラトニン受容体作動薬」は、睡眠に関与するメラトニンと同様の働きを持ちます。本来であれば夜になると増えてくるはずのメラトニンの働きをサポートします。 |
オレキシン受容体拮抗薬 | ベルソムラ/デエビゴ | 脳の覚醒に寛容するオレキシンというホルモンを阻害し、眠気を誘導します。覚醒のスイッチをオフにするような薬です。日中の眠気が出にくいというメリットも有しています。 |
バルビツール酸系 | ラボナ/イソミタール | 麻酔として使用されることもある、強い催眠作用を持ちます。重い副作用が出ることもあるため、不眠症の改善には原則として使用されません。 |
効果のピーク時間と作用時間について
睡眠薬と一口に言っても、さまざまな種類があります。ピーク時間・作用時間に着目すると、超短時間型・短時間型・中間型・長時間型に分けられます。
型・商品名 | ピーク時間 | 作用時間 |
---|---|---|
超短時間型 マイスリー/アモバン/ルネスタ/ハルシオン |
内服後1時間未満 | 内服後2~4時間 |
短時間型 レンドルミン/エバミール(ロラメット)/リスミー/デパス/サイレース |
内服後1~3時間 | 内服後6~10時間 |
中間型 ユーロジン/ベンザリン(ネルボン)/ロヒプノール |
内服後1~3時間 | 内服後20~24時間 |
長時間型 ドラール/ベノジール/ダルメート/ソメリン |
内服後3~5時間 | 内服後24時間以上 |
超短時間型
内服して30分以内に効果が現れ始め、ピークも1時間以内であるため、寝つきの悪い方に適しています。
一方で、中途覚醒でお困りの方には不向きです。
短時間型
効果の持続時間がやや長いため、中途覚醒のある方に適しています。特に、寝入ってから比較的早いタイミングで覚醒するケースです。
中間型
寝入ってから、ある程度時間が経過したタイミングで覚醒するケースに適しています。
長時間型
夜明け前などの早期覚醒の方に適しています。ただし、薬の作用によって翌朝に起きられない、起きたけれど眠い、ということもあります。
睡眠薬の中で一番強い薬は?
たとえば同じ「短時間型」の中でも、その効果の強さには差があります。短時間型の睡眠薬を効果の高い順番に並べると、サイレース>レンドルミン>デパス≒エバミール(ロラメット)>リスミーとなります。
中でもサイレースは、現在使用される睡眠薬全体の中でも、もっとも効果の強い睡眠薬と言えます。
睡眠薬の副作用
睡眠薬を使用すると、日中の眠気やふらつきといった副作用が出ることがあります。処方する際には、効果だけでなく副作用についても考慮して睡眠薬を選択します。
以下、主な副作用と、その対処法についてご説明します。なお、比較的副作用の少ない睡眠薬としては、ベルソムラやデエビゴといったオレキシン受容体拮抗薬、ロゼレムやメラトベルといったメラトニン受容体作動薬が挙げられます。
眠気
眠気が強く朝起きられない、午前中に眠気を引きずってしまう、居眠りをしてしまうといったことがあります。特に、ドラール、ベノジール、ダルメート、ソメリンといった、「長時間型」に分類される睡眠薬で起こりやすい副作用です。
必要に応じて、薬の量を減らす、効果の持続時間が短い睡眠薬に変更するといった対応をとります。
ふらつき
主に筋弛緩作用によって起こる副作用です。特にご高齢の方、足腰の弱っている方の場合、転倒や骨折の心配もあるため、注意が必要です。ふらつきも、眠気と同様に効果の持続時間が長い睡眠薬に起こりやすい副作用です。
薬の量を減らす、効果の持続時間が短い・筋弛緩作用の弱い睡眠薬に変更するといった対応をとります。
健忘
健忘とは、物忘れのことです。たとえば睡眠薬を飲んだあとにお菓子を食べてから寝て、翌朝その袋を見つけて驚くといったようなことが起こります。あくまで物忘れであり、異常行動ではないため、日常生活や仕事への影響はそれほど大きくありません。
健忘は、効果の持続時間の短い睡眠薬、効果の強い睡眠薬で起こりやすい副作用です。また睡眠薬の量が多い時、アルコールと睡眠薬を併用した時も、副作用のリスクが高くなります。
対処法としてはまず、寝る直前に睡眠薬を飲むこと、アルコールと一緒に飲まないことを徹底します。その上で健忘が出る場合には、薬の量を減らす、効果の持続時間の長い睡眠薬に変更するといった対応をとります。
反跳性不眠
睡眠薬を長期間使用していると、体がその成分に慣れてしまいます。その状態で突然服用をやめる、減量することで不眠が服用前より強く出る副作用を「反跳性不眠」と言います。睡眠薬の離脱症状です。
バルビツール酸系やベンゾジアゼピン系の睡眠薬、効果の持続時間が短い睡眠薬、効果が強い睡眠薬で起こりやすい副作用です。
対応としては、上記に該当しない睡眠薬へと変更する、できる限り少量・短期間の使用に留める、睡眠の環境を整えるといったものがあります。もちろん、アルコールと一緒に飲むのも避けてください。
睡眠薬を服用時の
注意事項
- いずれの睡眠薬も、アルコールと一緒に飲むのは厳禁です。また一緒でなくても、夜にアルコールを飲むこともできる限り避けてください。
- 睡眠薬を飲んでから眠気が来ないからといって、睡眠薬を追加して飲むことは絶対に避けてください。
- 自己判断で睡眠薬の服用を中止することは避けてください。不眠が悪化したり、不安などの症状が出ることがあります。減量・中止の際には、必ず医師の指導のもと、調整を行います。
- クアゼパム(ドラール)は、食後の服用は避けてください。血中濃度が上がりすぎるおそれがあります。
- 副作用が強く現れた時には、すぐに当院にご連絡ください。
睡眠薬の
代わりになるもの
不眠が認められる場合には、睡眠薬以外にも、抗うつ剤や抗精神病薬が処方されることがあります。病態全体を考慮した上で、適切な薬を処方いたします。処方についてご不明の点がございましたら、何でも遠慮なくお尋ねください。
抗うつ剤
睡眠薬の代わりとして使用される抗うつ剤は、「鎮静系抗うつ薬」と呼ばれるタイプになります。セロトニン2受容体をブロックし、睡眠の質を改善します。
その他、「NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)」、「四環系抗うつ薬」、「三環系抗うつ薬などを使用することもあります。三環系抗うつ薬は、悪夢を見る方に使用します。
抗精神病薬
抗精神病薬は、ドパミン2受容体をブロックすることで、鎮静作用を発揮します。SDA(セロトニン・ドーパミン遮断薬)、MARTA(多元受容体作用抗精神病薬)といった非定型抗精神病薬にはセロトニン2A受容体をブロックし、睡眠を深くする作用をもたらします。
市販の睡眠薬
(睡眠改善薬)の効果
睡眠薬は、薬局やドラッグストアなどでも購入できます。ほとんどが抗ヒスタミン薬であり、一部漢方薬も市販されています。
医師が診察した上で処方する睡眠薬とは成分・仕組みがまったく異なり、基本的に一時的な不眠を改善するために使用するものです。時差ぼけ、生活リズムの乱れなどによって睡眠の質が低下した場合などに適しており、心身の症状をきたしている場合には不向きです。市販されている睡眠薬の用途を分かりやすく言い換えると、「普段はしっかり眠れている人が、一時的に眠れなくなった時に使用する薬」と言えます。
慢性的な不眠の方、心身の症状が出ている方は、医療機関を受診した上で、ご自身に合った睡眠薬を処方してもらうことをおすすめします。