人前で話せない/
人前で話すと手が震える

人前で話せない、
人前で話すと手が震える

人前で話せない、人前で話すと手が震える大勢の人前に立った時には、程度の差こそあれ誰でも緊張します。中には、緊張で手が震えるという方もいるでしょう。しかし、最初はひどく緊張していた人も、通常はそういった場面を何度も経験していったり、話術を鍛えたりすることで、だんだんと緊張しなくなっていきます。
一方で、緊張の度が過ぎて最後まで話し切ることさえ難しい、場数を踏んでも一向に改善しない、震えや吐き気などの症状が強く出るといった場合には、社交不安障害や場面緘黙症(ばめんかんもく)である可能性が疑われます。こちらは経験や技術による改善が困難であり、治療・サポートが必要になります。

人前で話せない、
人前で話すと
手が震える原因は?

人前で話せない、人前で話すと手が震えるといった場合の原因には、以下のようなものがあります。

人の視線に慣れていない・人前に立つことに慣れていない

部屋に1人でいる時と、誰かを招いて2人になった時では、表情や動き、声の質も変わります。これは、その相手の視線を感じ、多少なりとも緊張が生じているためです。
人の視線に慣れていない方は、人の視線を向けられた時の緊張も大きくなります。会社や学校における発表の場などではより多くの視線を浴びることとなり、緊張の度合いはさらに大きくなります。

そもそも人と喋る機会が減っている

インターネット、特にSNSの普及により、日常生活の中で人と直接話さずに済むことが増えています。国民全体として、文字などで考えを伝えることが得意になる一方で、喋って伝えることは不得手になっているようです。
不得手であるがゆえ、また経験が少ないために、人と話す時に緊張する人の割合も多くなります。

まわりからの評価が過剰に気になる

個人差はありますが、特に会社などでは、まわりからの評価をまったく気にしないというのは困難です。これは普通のことであり、だからこそプレゼンなどの場面では緊張もしますし不安にもなります。
しかし、まわりからの評価が過剰に気になると、緊張も大きくなり、人前で話せない、手が震えるといったことが起こる可能性も高くなります。

失言をした時・うまくいかなかった時のことを想像してしまう

間違ったことや見当違いのことを言ってしまう、あるいは経験・準備の不足からプレゼンなどがうまくいかなかった時のことばかりを想像してしまう、緊張や不安が大きくなり、本番で話せない、手が震えるといったことが起こります。
特に一人で仕事を抱え込むなどして、まわりからのサポートが受けられない状態であるほど、失敗した時のことを実際以上に大きな問題と考えてしまう傾向にあります。

人前で話せない場合に
考えられる病気

ここまでご説明した通り、緊張により人前で話すことが難しいというのは、特別おかしなことではありません。経験を積んだり、しっかりと準備をしたり、同僚など人の助けを借りることで、ほとんどは次第に改善されます。
しかし、緊張の度が過ぎて最後まで話し切ることも難しい、経験を積んでも一向に改善しない、震えや吐き気などの症状が強く出るといった場合には、社交不安障害や場面緘黙症(ばめんかんもく)である可能性を疑います。

社交不安障害 (あがり症)

社会での交際の場、人前などで何らかの行為をする時、不安・緊張・恐怖などを強く感じ、またその状況を避けようとすることで日常生活に支障をきたします。
不安が強くなる一方で、なんとか頑張らなければいけないと努力する、頑張りすぎてしまうというケースも見られます。
原因については、はっきりしたことが分かっていません。不安・恐怖が増幅しやすい脳内の生物学的要因、生育歴や経験による環境要因、遺伝要因などが複数関与して発症にいたるものと考えられています。
社交不安障害は、「あがり症」とも呼ばれます。また以前は「社会性不安障害」と言いました。

症状

  • 人前で喋る時に極度に緊張し、しどろもどろになる、手・声が震える
  • 人前で字を書く時、お茶を出す時に手が震える
  • 電話に出られない、出るのがこわい
  • 人と一緒に食事をすると食べ物がのどを通らない、味がしない
  • みんなが静かにしている空間で「お腹が鳴ったらどうしよう」と極度に不安になる
  • 人前に立った時の赤面、震え、発汗、動悸、息苦しさ、吐き気、頭痛、めまい
  • 人と会う予定があると便秘、下痢になる
  • 他人の視線がこわい、目を合わせられない
  • 人とのコミュニケーションの取り方が分からない

このように、精神症状と身体症状が混在します。

治療法

薬物療法

SSRI、ベンゾジアゼピン系抗不安薬、βブロッカーなどが処方されます。
SSRIは、社交不安障害の薬物療法において基本となる薬です。抗うつ薬の1つであり、内服によって不安が生じにくくなることから、回避行動の減少、成功体験の獲得が期待できます。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、脳内神経伝達物質の1つであるGABAの働きを調整し、不安・興奮を抑制します。SSRIよりも高い即効性を有し、必要なタイミングで服用するのが一般的です。定期的に服用するケースもありますが、常用により依存が懸念されるため注意が必要です。
βブロッカーは、社交不安障害に伴う動悸、震え、息切れ、発汗などの症状を抑制します。こちらも常用するのではなく、必要なタイミングで内服します。

精神療法

認知行動療法が中心となります。どのような時にどのような症状が現れるのかを振り返り、認知の歪みを明確化・自覚し、その修正を図ります。

場面緘黙症(選択性緘黙症)

不安や緊張、恐怖から、職場や学校など、特定の場面で話すことができなくなる精神疾患です。家庭や友人との集まりなど、安心できる場面(場所)では普通に話すことができるという特徴を持ちます。
「わざと話さないのだろう」「見下しているんだろう」、あるいは“わざと”ではないにせよ「そういう性格なんだろう」といった誤解の生じやすい病気ですが、本人は「頑張って話そう」「話したい」と考えています。
多くは子どもに見られる病気ですが、症状が見過ごされ、大人になってからも場面緘黙症を抱えているケースが少なくありません。
はっきりとした原因は分かっていませんが、生物学的要因、心理的要因、社会的要因、あるいは文化的要因などが複雑に絡み合って発症するものと考えられています。

症状

  • 不安、緊張、恐怖が強くなる
  • トイレなどで席を立つことをためらう
  • 上司や同僚からの何げない質問に答えらない、しどろもどろになる
  • 緊張を伴う状況下で上司に話しかけられない、必要な書類を提出できない
  • 業務の指示を受け、その内容が理解できない場合に質問できない、頷いてしまう
  • 朝礼や会議などで発言できない
  • 休憩中や業務後の飲み会などの雑談ができない、孤立している

職場など特定の場面で、上記のような症状が現れます。それ以外の場面では普通に話せるという時には、場面緘黙症が疑われます。

治療法

薬物療法

抗うつ薬の1つであるSSRIを使用することがあります。うつ状態、不安を和らげます。

精神療法

どのような場面でどのような症状が出るかを振り返り、認知の歪みを明確化・自覚します。さらに歪んだ認知を修正し、具体的な対策を講じることで、症状が現れにくくなることが期待できます。

その他の心理療法・訓練

臨床心理師によるカウンセリング、言語聴覚士による訓練などが必要になることもあります。

人前で話せない、
手が震える場合の対処法

人前で話せない、手が震えるといった場合に、以下のような対応をとれば改善できることがあります。

不安の原因を振り返り、次の機会に備える

不安の原因を振り返り、それが自分でコントロールできるものであれば、改善します。漠然としていた不安が明確になることで、その対応がしやすくなります。

生活習慣の改善

生活習慣の乱れは、心身の不調の原因となります。食事の栄養バランスに気をつけたり、適度な運動をしたり、十分な睡眠をとったりといったことは、不安や緊張、恐怖への抵抗性を高めることにつながります。

深呼吸をする

緊張する人と会う前、緊張する場面に向かう前には、何度か深呼吸をしましょう。心とともに、筋肉の緊張もほどけます。
また緊張する人といるときや緊張する場面にいるときも、できる限り、呼吸が浅くならないようにしましょう。

本来の目的に集中する

人前で話せない、手が震える人は、「話す」ことが目的になってしまっていることが少なくありません。
しかし本来は、プレゼンがうまくいくこと、その人と仲良くなること、業務を円滑に進めることなどが目的であるはずです。そういった本来の目的を再認識することで、「自分が話すことはある目的に向かうための1つの行程である」ことが理解され、プレッシャーが和らぐことが期待できます。

緊張を受け入れる

「人前でまったく緊張しない」というのは、喋りのプロでも難しいことです。「緊張するのが当たり前」と考えることで、その緊張が和らぎます。
過度に緊張をすると、頭も固くなり、本来であれば出る言葉も出てきません。

練習をする・経験を積む

プレゼンの前であれば、同僚や家族の前で練習するといった方法は非常に有効です。それが難しければ、鏡を見ながらの練習でも構いません。「ここで間があいてしまう」「ここが分かりにくい」といったスピーチの問題点が浮かび上がってきます。また、「ここで質問が飛んできそう」という予測もつくでしょう。
練習を積んで本番を迎えるということを繰り返していく経験は、人前で話す時の緊張や不安を和らげる上でもっとも有効な方法と言えるでしょう。
会議室やステージなど、本番で使う場所を下見しておくのもおすすめです。

人前で話すことが
怖い・苦痛を
感じている場合には
ご相談ください

人前で話すとき、相手が大勢であればあるほど、緊張するのは当たり前のことです。場慣れしていない場合には、手が震える、吐き気がするといったこともあるでしょう。しかし経験を積む等、さまざまな対策をとることで、多くのケースで緊張や不安、恐怖心は薄れていきます。
一方で、社交不安障害や場面緘黙症が疑われるケースも少なくありません。緊張の度が過ぎて失敗ばかり続いている、場数を踏んだり練習をしたりしても一向に改善しない、震えや吐き気などの症状が強く現れるといった場合には、お早めに当院にご相談ください。